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 moji


 あわただしく落とされる部屋の灯り。とりあえず全員隠れて、と小声の叫び。分厚い布団に潜ると、至近距離にあった親友の顔。
「ユミちゃ、ん」
「マナ」
 ひそひそ声で呼びあう。廊下から段々と近づいてくる先生の足音が聞こえる。
「怒られたらうちらも同罪?」
「そうじゃない? 止めなかったんだもん」
 黙れという意味らしい、誰かに背中を蹴られた。
 オトシゴロの男女十名が五枚の布団の中で密着して息を潜めている。まるでラブコメ漫画だ。かく言うあたしもラブコメ気分を満喫中。
(え?)
 自分の考えに衝撃を受ける。あたし今ユミちゃんを、女の子を相手にどきどきしてるんだ。自覚を持つと更に心臓は激しく鼓動し始めてしまった。
 空気の張り詰めた暗い部屋の、熱気のこもった狭い布団のなか。ユミちゃんと目があった。
 今、体の中はまるで沸騰したお湯のよう。暗がりの中でユミちゃんの瞳の小さな輝きに吸い込まれそうになる。
 がら、と扉が開く音がしたと同時にユミちゃんの手があたしの肩に回った。夢でも見ているんじゃないかと思うには体中があまりにも熱くて、あたしの皮膚を這うように背中へと移動するユミちゃんのてのひらの感触だけがやけにくっきりと伝わってきた。
 先生が部屋に入ってくる気配がした。でもそれはあたしたちの緊張の理由には微塵も加わらない。
 どちらからともなく目を合わせた。お互いに吐息も掛かる距離。あたしはたまらなくなってユミちゃんの胸に顔をうずめた。先生にばれるかもとか誰かに見られてるかもとか、そういった心配は不思議と沸いてこなくて、かといってあたし達二人だけが違う世界にいるみたいな錯覚を起こすわけでもなく、つまるところ頭の中が真っ白だった。
 あたしの体はというと、ユミちゃんの温みとやわらかさを感じているだけなのに身が捩れるほどの快感にのみこまれていた。僅かに残った理性が動き出しそうな体を必死で制す。上目で見るとユミちゃんも同じようにしていた。
 布団から出なさい。先生の冷たく重い声が響く。あたし達ははっとして同時に離れた。気まずそうに起き上がるみんな。
 そのあと男女別れて先生達に怒られた。思春期の性の不安定さと危うさをくどくどと説く学年主任の声を聞きながら、あたしはある一つの欲求が生まれるのを抑えずにはいられなかった。
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 moji


 ミナは誰からも好かれていた。決して過大評価じゃない。陰口が大好きな女子だけど、ミナのことを悪く言う人を私は一度も見たことがない。
 12歳とは思えない素直さに満遍なく振り分けられる優しさ、塵ほどの嫌味も含まない物言いに天然で人なつっこい性格、そしてかわいらしい容姿。それらを妬む気持ちを持つことにも後ろめたさを感じるほどに、ミナは「いい子」だった。
 もちろん、そんなミナが陰で味わっていた苦しみや抱えていたストレスなんかは誰一人知る由もない。ミナは自己主張を全くと言っていいほどしなかった。
 みんな、本当に「みんな」、ミナのことが好きだった。わたしもその一人。人付き合いが苦手な私でもミナといる時間は例外なく楽しくて、ミナとの会話はほかの人とする時のように滞ることも途切れることもなかった。太陽のような、という比喩も相応しいミナの笑顔を見るためにならなんだってできると心から思った。つまるところわたしにとってミナは特別な、たった一人の友達だったのだ。
「向こう着いたら、手紙出すね。あとケータイ買ってもらえるから、電話とかメールも」
「うん。向こうでも元気でね」
 けれどミナにとってわたしは特別な存在どころか、数多くいる友達の中の一人でしかなかった。それをわたしは痛いほどに認識していた。悲しいとかむなしいとか思ったりはせず、ただ「仕方のないこと」、そういう事実として。
「学校変わるなんてほんと怖いな。なじめなさそう」
「大丈夫だよ、ミナなら」
 上手くいかなければいいのに。ありえないことだと分かっているからこそ渇望した。わたしの知らない教室で、わたしの知らない友達に囲まれて、わたしのよく知っているあの笑顔を浮かべているミナの姿を想像すると途端に忌々しい気分に陥った。そんな汚い自分を嫌悪する余裕すらなく。
「あたしのこと忘れないでね」
「忘れるわけないじゃん! こっちのセリフだからそれ」
 そう、きっとミナはたった一年半の間平凡な友達だったわたしのことなんかすぐに忘れてしまうだろう。
「何言ってんの、あたしだよ。むこーでさみしくなったらすぐ電話しちゃうと思うし。手紙も暇で暇で何枚も書いちゃったりして」
 「いつでも歓迎しますよ」
「ありがとー」
 それでも。あなたがわたしのことを、性格から存在まできれいに忘れてしまっても。わたしは確かに共有した時間、強烈に輝いた奇跡のような一年半を、宝物として死ぬまで抱え続ける。

 その後、電話も手紙もミナから来たのは一回だけだった。弾んだ声と明るい文面で。
 moji

短編をいっぱい書きたいなーと思って急きょ設置。この、新聞とかニュースで「急遽」の「遽」がひらがなになっているのが気になります。且つ好きです。
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