1.消えそうな声
2.優しすぎて。
3.いつも通り
4.嘘で、良いから。
5.優先順位
6.冷めて行く温もり
7.いつだって、そう。
8.祈り続けて。
9.幸せになったあと
10.これで、良いの。
配布元:Liberalismさま
短文でやってみようと思います。夏休み中に終わらせるのが目標。
2.優しすぎて。
3.いつも通り
4.嘘で、良いから。
5.優先順位
6.冷めて行く温もり
7.いつだって、そう。
8.祈り続けて。
9.幸せになったあと
10.これで、良いの。
配布元:Liberalismさま
短文でやってみようと思います。夏休み中に終わらせるのが目標。
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女子の世界では「もう」「まだ」がふたつあって、ひとつめは初潮、ふたつめは処女喪失である。どちらも自分には関係のないことと思っていたらいつの間にかとなりあうくらい近くになっていた。「そういう」時期は一瞬一刻ごとに試されているみたいで落ち着かない。
「アスカ、移動したほうがよくない?」
息をころして教室の中を覗き見ていたミサが気まずそうに言う。その視線が虚空をゆらゆらと漂っているのに気がついて言いようのない気持ちにおそわれた。
「……いや、いいよ」
理由もなく否定するとミサは心からほっとしたように「うん」と呟いた。後ろで控えめに立っていた――だけど瞳の色は濃い――ハヤカとシホは、振り返ったあたしと目があうとふたり同時に固唾を呑む。
今日も多くの言葉を交わしたマリが、今日もノートを写させてくれた詠子の腕にいだかれて、たまらずといった様子でしきりに息を漏らしている。ときどき混じるふたりの喉からこぼれる声。そこに充満する熱気にあたしたちは「あたしたち」から「あたし」へと独立してゆく。普段は心地よい共存が意味の無いものへ、無粋なものへと変化する。
あたしはたゆたう「今」の行方を見定めようと必死だった。
マリをずっとかわいいと思っていた。容姿も中身も。だけど文字では書き表せそうにない声を上げて詠子に強く強く抱きつく彼女は、見ず知らず別世界の人間のようで――でも逆にとても生々しくもあって、あたしのなかに余計な悟りをひとつ増やしたのだった。
果てたマリはぐたっと詠子の胸に倒れこみ、あふれんばかりの満足感をたたえている。その背中を詠子の手が優しくなぜる。そこには彼女たちの世界が確立していた。
(友達のこんな姿、もう見たくない。なのに、足が動かない、目が離せない)
我に返った「あたしたち」の思いがぴったりと重なる。同時にいたたまれなくなって意識だけは全速力で走って逃げた。
がたん、と机の動く音がする。詠子がマリの制服を着せ直しているところだった。ためらいのない穏やかな手つきになぜかぞっとする。
「帰ろう、アスカ」
誰かに与えられた使命のように口を切ったのは、部活でマリと同じパートのシホ。その顔に浮かべられた笑みは、きっと彼女の最大限の努力。あたしにその努力を台無しにする権利はない。
うん、とあたしもいつもの明るさに戻る。いつもの快活なリーダーに帰る。
「珍しいもの見ちゃったね。明日二人を盛大に冷やかそうか」
あはは、と強張った笑いが起こる。一人ひとりが自分に課せられた役目を果たすことで、「あたしたち」は成り立っているのだ。
「よし、校門まで走って競争!」
重い両足に全神経を集中させて階段を駆け下りる。背中越しにみんなの足音がたたみかけるように響いてきた。あっというまに校門についておおきく空気を全身に送り込むと、きらきらはじけるような光が束の間だけそこらじゅうに散らばってみえる。
階下から合唱部の歌声が聞こえ我に返った。あわてて周りを見回し人影が見当たらないことに安堵する。黒板の上の掛け時計に視線を移し、この教室に来てからもう40分が経っていることを知った。
「ちょっと、えーちゃん……」
上擦った声。マリはもぞもぞと体を動かし宙に浮いたままの私の指に触れる。手を休めるなと言いたいらしい。
「マリ」
私はたしなめるようにその名を呼んでマリの力を制した。
「やっぱり教室はまずいよ。家に帰ってからにしよう」
「やだ!」と即答される。「家まで我慢しろっていうの?」
「それはそうだけど」
「あたしいま立つことだってできないよ」
閉口させられたマリの言葉は、だけどあながち嘘でもなさそうだった。その責任の一端は自分にもあるから、困る。とりあえず制服着直して、と手で示してもう一度廊下をチェックした。
話は今朝に遡る。
誕生日おめでとう、とテンプレートな挨拶でマリにプレゼントの置時計を渡すと、礼よりも先に腕を引かれた。マリはトイレの個室に二人で入るなんて小学生みたいなことをして、私の目を正面からしっかりと見据える。そして「笑わないでね」という日本一無茶な前置きのあとこう言い放った。
「あたし15の誕生日までに処女すてるのが目標だったの。目標なの」
もちろん笑わずにはいられない。大笑いというのではなく腹の底からじわじわとこみ上げてくる笑いをかみ殺すのに全神経を傾けた。
「真面目にいってるんですけど」
「ご、ごめん」
そう言われても可笑しさは消し去れない。マリはため息をひとつついてから「ここからが本題」と人差し指を立てた。
「残念ながら彼氏は振りました。本当に好きな人が誰だか気づいてしまったからです。そんなわけでえーちゃん、オトモダチの目標にどうか協力してください」
早口、すらすら、流暢に。加えてポーカーフェイスを気取ってもいたけどマリの細い体は小刻みに震え、両手はきつく握られている。
「……そういうことだったんだ」
肯定とも否定ともつかない、いやどちらとも取れる私の言葉に、マリは更に肩を震わせた。
それからの経緯は説明せずとも差し支えあるまい。ちなみに私は意地悪にもイエスオアノーを放課後まで伸ばした。
思春期真っ盛りな中学生の一時的な衝動といわれてしまえばそこで終わり。でも私たちは至って必死だった。
「ねぇえーちゃん、ほんとに帰るの?」
火照った顔をしたマリが上目遣いに尋ねてくる。そんな表情を見せられたらうんと答えるべきこの場面を乗り越えられそうにない。
「だって誰かに見られるかもしれないよ」
懸命に喉を絞って出した自分の声のなんと弁解じみていることか。マリはあいかわらず床にぺたりと座り込んだままか細い声で訴えかけた。
「あたしが今この状況で出て行ってもばれるよ?」
あ、と呟きが漏れる。上気した頬に焦点の定まらない瞳。ぼんやりふわふわと浮いているように見えて、懸命に強い力を押し返すマリの中枢。これじゃあ誰の目にも「そういうこと」だって一目瞭然だ。
私はかわるがわる浮かぶ選択肢に目を眩ませる。
急がば回れ、もしくは、善は急げ。
結局私が選んだのは後者だった。据え膳食わぬはナントカと言うし(女だけど)。
でもマリが夢を叶えられたのかどうか、そして処女喪失の定義はよくわからない。わからないので、本人が満足ならそれでいいと思うことにした。
「ありがとうね、えーちゃん」
廊下を歩きながらマリが笑う。実はずっとマリの唇に塗られた色つきリップが中途半端に落ちている――というか私が落としてしまった――ことが気になっているのだけど、気恥ずかしくって指摘できなかった。
「ま、誕生日だしサービスね」
「えへへ」
まったく、一日中怯えて私の機嫌を窺っていたのはどこの誰だっただろう。マリは幸せだと叫ばんばかりにだらしなく口元を緩めている。その満ち満ちた様子に再び私の悪戯心が働いた。
「もうこういうことはしないよ」
瞬間、マリが表情を変えずに凍りつく。瞬きの頻度が上がる。「え」と懇願するように私を見た。その目に映る自分は得意げにワイシャツの袖を捲っている。
「――公の場ですることじゃない。こんどは家でね」
熱湯をかけられた氷のように、マリは「うん!」といい返事をくれた。
正直高をくくっていた。部活を引退した三年生が放課後教室に戻って来るなんてことはないだろうと。確かに誰も戻っては来なかった。だけど。
「詠子、ちょっと話があるんだけど」
朝のHRの直後、クラスメイトのアスカたちに取り囲まれて血の気が引いた。彼女たちは口々に言う。覗くつもりも邪魔するつもりもなかった。ただ進路関係の用事で学校に居残っていただけ。マリがわがままを言ったのも見ていた。
いや、ばっちり覗いてるじゃん。そう突っ込む気力も失せかけたころ、最後の一球を放たれた。
「全然、悪いこととか思ってないよ。むしろ二人をその、全面的に見守っていこうと思ってます」
常に歯に衣着せぬ物言いのアスカがあろうことか柔らかい口調で、仕舞いには敬語で私に微笑み掛ける。なんだか引き返せぬ場所まで来てしまった気がして、それが一秒も経たないうちに確信に変わって、私はあたりに充満する好奇心たちにあいまいな笑みを向けてみた。
「このタイトル、なんて読むの?」
はっとして顔を上げると、冴莉は私の手元の本を覗き込んで怪訝な顔をしている。カバーを掛けておくべきだったと咄嗟に後悔した。
「憧子さんってこんな本読むんだ」
同い年でクラスメイトの冴莉は、私のことをなぜかさん付けで呼ぶ。
「難しそう」
「そうでもないよー」と笑って本を閉じた。「ところでどうしたの?」
さっきまで私ひとりだった放課後の教室。そういえば冴莉が来たことに気づかなかった。
「ん、なんか五時に呼び出されたんだ。それまで残って待ってようかと思って」
「呼び出された?」
私が鸚鵡返しに聞くと冴莉は、ちょっとね、と嬉しそうな声で言ってはにかんだ。
***
誰に、って聞き返されれば成功だと思った。だけど憧子さんはふうんとうなるだけでもうその話題には言及しない。あーあ、とわたしは心の中でため息をついた。
「憧子さん、5組の前川って知ってる?」
「へ?」と憧子さんは素っ頓狂な声を上げた。「知ってるけど、あいつがどうかしたの?」
「うん、実はね……前川に呼び出されたの。話がある、って」
少しの、間。それを取り返すように憧子さんは「そうなんだ!」と叫んだ。
「声大きいよ」とたしなめながらもわたしはまんざらではなかった。「話って何だと思う?」
「そりゃあやっぱアレでしょ」と口角を上げる。「告白ってやつ?」
「うそー」
「いや絶対そうだってば、冴莉かわいいしさあ。報告メールよろしくね」
語尾に音符マークでもつきそうな口調でしゃべる憧子さん。わたしは再び落胆した。
***
「……つまんないの」
冴莉が突然顔色を変えてそんなことを口にするものだから私はぎょっとした。何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか。
「つまんないって」
どういうこと、を言う間も私に与えず冴莉は話し始めた。
「嘘だよ、呼び出しとか全部。四月馬鹿でもないけどさ」
「ええ? なんでそんなこと」
「べつに」と冴莉は膨れっ面をした。「分かんないんだったらいいです」
どうやら怒っているらしいけど、私にはまったく心当たりがないのでなすすべもない。しょうがないので「そう」と突き放して本の世界に戻ることにした。冴莉の性格なら大体把握している。
***
憧子さんらしいなあと思わず感動すら覚えてしまった。どこが「らしい」のかというとわたしの扱いが完璧なところだ。悔しいけどそのことでいまさら怒る気にはならない。というか怒れない。
「憧子さんに妬いてもらおうと思ったのっ」
どきどきしながら本音を打ち明けると、憧子さんはそんなわたしと対照的に「なんだそんなことか」と微笑んだ。
「冴莉って普通にかわいいけどたまにへんなことするよね」
「……ありがとう、でいいの?」
「うん。さて、じゃあ一緒に帰ろーか」
わたしたちの家はまったく逆方向にある。校門までだけどね、と付け加えわたしは席を立った。
「冴莉」
「ん?」
「なんで私のことさん付けで呼ぶの?」
「いやだった?」
聞き返すと憧子さんは首を振って否定を示し、でも、と続ける。でも、冴莉以外のみんなは呼び捨てにするじゃん。その瞳には一瞬、ほんのわずかだけど照れの色が浮かんでいた。
「だからだよ」
かわいい、なんて短時間で二回も言ったね。
きっと、あなたが思う以上に、わたしの中であなたは大きな存在なんだ。
はっとして顔を上げると、冴莉は私の手元の本を覗き込んで怪訝な顔をしている。カバーを掛けておくべきだったと咄嗟に後悔した。
「憧子さんってこんな本読むんだ」
同い年でクラスメイトの冴莉は、私のことをなぜかさん付けで呼ぶ。
「難しそう」
「そうでもないよー」と笑って本を閉じた。「ところでどうしたの?」
さっきまで私ひとりだった放課後の教室。そういえば冴莉が来たことに気づかなかった。
「ん、なんか五時に呼び出されたんだ。それまで残って待ってようかと思って」
「呼び出された?」
私が鸚鵡返しに聞くと冴莉は、ちょっとね、と嬉しそうな声で言ってはにかんだ。
***
誰に、って聞き返されれば成功だと思った。だけど憧子さんはふうんとうなるだけでもうその話題には言及しない。あーあ、とわたしは心の中でため息をついた。
「憧子さん、5組の前川って知ってる?」
「へ?」と憧子さんは素っ頓狂な声を上げた。「知ってるけど、あいつがどうかしたの?」
「うん、実はね……前川に呼び出されたの。話がある、って」
少しの、間。それを取り返すように憧子さんは「そうなんだ!」と叫んだ。
「声大きいよ」とたしなめながらもわたしはまんざらではなかった。「話って何だと思う?」
「そりゃあやっぱアレでしょ」と口角を上げる。「告白ってやつ?」
「うそー」
「いや絶対そうだってば、冴莉かわいいしさあ。報告メールよろしくね」
語尾に音符マークでもつきそうな口調でしゃべる憧子さん。わたしは再び落胆した。
***
「……つまんないの」
冴莉が突然顔色を変えてそんなことを口にするものだから私はぎょっとした。何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか。
「つまんないって」
どういうこと、を言う間も私に与えず冴莉は話し始めた。
「嘘だよ、呼び出しとか全部。四月馬鹿でもないけどさ」
「ええ? なんでそんなこと」
「べつに」と冴莉は膨れっ面をした。「分かんないんだったらいいです」
どうやら怒っているらしいけど、私にはまったく心当たりがないのでなすすべもない。しょうがないので「そう」と突き放して本の世界に戻ることにした。冴莉の性格なら大体把握している。
***
憧子さんらしいなあと思わず感動すら覚えてしまった。どこが「らしい」のかというとわたしの扱いが完璧なところだ。悔しいけどそのことでいまさら怒る気にはならない。というか怒れない。
「憧子さんに妬いてもらおうと思ったのっ」
どきどきしながら本音を打ち明けると、憧子さんはそんなわたしと対照的に「なんだそんなことか」と微笑んだ。
「冴莉って普通にかわいいけどたまにへんなことするよね」
「……ありがとう、でいいの?」
「うん。さて、じゃあ一緒に帰ろーか」
わたしたちの家はまったく逆方向にある。校門までだけどね、と付け加えわたしは席を立った。
「冴莉」
「ん?」
「なんで私のことさん付けで呼ぶの?」
「いやだった?」
聞き返すと憧子さんは首を振って否定を示し、でも、と続ける。でも、冴莉以外のみんなは呼び捨てにするじゃん。その瞳には一瞬、ほんのわずかだけど照れの色が浮かんでいた。
「だからだよ」
かわいい、なんて短時間で二回も言ったね。
きっと、あなたが思う以上に、わたしの中であなたは大きな存在なんだ。
「もしもあと一日で」
たとえそれがどんな使い古しの言葉でも。
「世界がなくなるとしたら?」
彼女の口から出たのなら、春宵一刻値千金。
「どうしたの、いきなり」
「なんとなく、ね」
静生ちゃんは虚空を見上げて言う。わたしはその瞳の奥にあるものを希求した。たぶんこういうのを心酔とか傾倒とか人は表現するのだろう。
「わたしは――」
「うん?」
喉が詰まる、息が詰まる。
たとえ世界がどういう状況に陥ろうと、わたしの望みはただひとつ。
「静生ちゃんと一緒にいるよ、さいごの0.1秒まで」
緑の黒髪の彼女はちょっと沈黙して、そっか、と呟いた。
「ありがとう。じゃあさ」
声が途切れて、水をうったような静寂に身を委ねる。プールの中で上下左右があやふやになるときに似た浮遊感。
「私は海に入水して果てたいんだ。生物のはじまりの海に」
じりじりと照りつける日差し、汗ばんだ背中、狭い天下。まさか明日、すべてが失せてしまうなんて思わないけど。
「ついてきてくれる?」
「言うに及ばないわ」
静生ちゃんはにっと笑って感謝を表した。“Love is Blind”、一瞬苦しそうに歪んだ表情はしっかり見て見ぬ振りをする。
樹海だろうと、海底だろうと、ここではないあらゆる場所。
怖くないさ、あなたとならどこへでも。
たとえそれがどんな使い古しの言葉でも。
「世界がなくなるとしたら?」
彼女の口から出たのなら、春宵一刻値千金。
「どうしたの、いきなり」
「なんとなく、ね」
静生ちゃんは虚空を見上げて言う。わたしはその瞳の奥にあるものを希求した。たぶんこういうのを心酔とか傾倒とか人は表現するのだろう。
「わたしは――」
「うん?」
喉が詰まる、息が詰まる。
たとえ世界がどういう状況に陥ろうと、わたしの望みはただひとつ。
「静生ちゃんと一緒にいるよ、さいごの0.1秒まで」
緑の黒髪の彼女はちょっと沈黙して、そっか、と呟いた。
「ありがとう。じゃあさ」
声が途切れて、水をうったような静寂に身を委ねる。プールの中で上下左右があやふやになるときに似た浮遊感。
「私は海に入水して果てたいんだ。生物のはじまりの海に」
じりじりと照りつける日差し、汗ばんだ背中、狭い天下。まさか明日、すべてが失せてしまうなんて思わないけど。
「ついてきてくれる?」
「言うに及ばないわ」
静生ちゃんはにっと笑って感謝を表した。“Love is Blind”、一瞬苦しそうに歪んだ表情はしっかり見て見ぬ振りをする。
樹海だろうと、海底だろうと、ここではないあらゆる場所。
怖くないさ、あなたとならどこへでも。